鶴屋吉信

2015年、京都駅に誕生した直営店『鶴屋吉信 IRODORI』。和をベースにモダンで洗練されたインテリアの一部は、京都出身の和紙デザイナー、堀木エリ子氏が手がけた。

老舗菓匠が時を越えてつなぐ
京都固有の和菓子文化

全国各地に和菓子の銘品が数あるなか、古都京都においては固有の和菓子文化が育まれてきた。朝廷や公家の典礼菓子、神社仏閣の供饌菓子、茶道芸術の茶菓子など、いにしえより和の伝統と格式が息づく地で発展した菓子は、京菓子の名で珍重され、他の和菓子と一線を画している。京都1200年の歴史を築いたのは革新の継続であるように、菓匠たちもまた時代とともに技と粋を磨き洗練させ続けてきたからこそ、今なお京菓子の文化が継承されていると言えるだろう。
そんな文化を黎明期から牽引する、京菓匠『鶴屋吉信』。江戸幕府開府200年にあたる1803(享和3)年に初代鶴屋伊兵衛が創業し、210余年の歴史を重ねる老舗だ。創業から半世紀後には京都所司代認可の上菓子屋仲間に属する菓子司となり、以来、御所や宮家、神社仏閣、茶道や華道の家元などの御用菓子を手がけてきた。三代目が「吉兆」と「信用」の一文字を合わせて掲げた『吉信』の屋号は、菓子作りに対する誠意の表れ。代々伝わる家訓の一条には「ヨキモノヲツクル為ニ材料、手間ヒマヲ惜シマヌ事」 とあり、先人の思いを今に受け継いでいる。

もなかプレート

カフェスペースで味わえる「もなかプレート」972円。マカロンのようなパステルカラーの最中種で、小倉餡、抹茶餡、バニラアイスをサンド。

現在では全国各地で店舗を展開し、京菓子の名匠として広く知られているが、老舗の歩みは常に新しい価値への探求と創造の足跡を残してきた。守るだけでは価値は失われるという、京都らしい精神で京菓子の未来を切り拓いている。 衣鉢相伝の精神を心身に刻み込んだ職人たちは、技の伝承とさらなる発展を目指し、工芸菓子の展覧会に数々の名作を出品している。さらに、京菓子の新たな可能性を求め、伝統的な京菓子の枠に留まらない独自の菓子づくりにも積極的に挑戦。約20年前から手がけて今や定番となっているクリスマス菓子に加え、2016年秋にはハロウィン菓子も新しくスタートさせた。また、2015年には、京都駅前に直営店『鶴屋吉信 IRODORI』を展開。新しい京都土産として、国内外の観光客から注目を集めている。
名店の看板を振りかざすことなく、誠意に満ちたものづくりと、新しい価値創造に向けた進取の気鋭。それらを巧みに融合させる技とセンスに、名店の粋を感じる。

もなかプレート

カフェスペースで味わえる「もなかプレート」972円。マカロンのようなパステルカラーの最中種で、小倉餡、抹茶餡、バニラアイスをサンド。

鶴屋吉信 店内

1.『鶴屋吉信 本店』の販売スペース。代表銘菓や季節の生菓子を求め、幅広い客層で常に賑わう。2.東京・日本橋の『鶴屋吉信 TOKYO MISE』。広い店内スペースには茶房や『菓遊茶屋』も併設。3.『鶴屋吉信 本店』2階の『菓遊茶屋』では、熟練職人が季節の生菓子を作り上げる工程を目の前で見ることができる。

鶴屋吉信 本店/
TOKYO MISE

新旧の都に拠点を構え
京菓子文化を広く発信

京都市上京区の西陣界隈。堀川通と今出川通の交差点北西角に立つ『鶴屋吉信 本店』は、朝9時の開店から客足が途絶えることがない。季節の生菓子を求める和服のご婦人、「柚餅」や「京観世」をはじめとした代表銘菓を先様用の紙袋とともに持ち帰るスーツ姿の男性。週末の午後ともなれば、熟練職人が目の前で仕上げた季節の生菓子を味わえるカウンタースタイルの『菓遊茶屋』で、観光客が感嘆の声を漏らしている。店に訪れる人は客層も目的も様々だが、店を後にする時の表情は皆一様に明るく朗らかで足取りも軽やかだ。京都の老舗名店とはいえ、敷居は決して高くない。
一方、東京は日本橋。2014年にオープンしたCOREDO室町3の1階にある『鶴屋吉信 TOKYO MISE』は、かつての江戸の中心から京菓子文化を発信している。1960年に築地で東京初の直営店を開設した当時から贔屓にする常連はもちろん、若い世代のカップルや女性グループ、小さな子ども連れのファミリーから外国人観光客まで、店を訪れる客層は実に幅広い。そんな中、本店同様に設けられた『菓遊茶屋』は、しばしば空席待ちの行列ができるほどの賑わいをみせている。武家や商家の進物文化を受け継ぐみつまめをはじめ、「朝生」と呼ばれる団子や大福といった江戸の和菓子とはまた違う、京菓子ならではの文化や粋、味は、並んででも体感する価値があるといえるだろう。

鶴屋吉信 本店

Address/京都府京都市上京区今出川通堀川西入(西陣舟橋)
Tel/075-441-0105
営業時間/9時~18時、菓遊茶屋・お休み処は9時30分~17時30分LO
定休日/水曜不定休、菓遊茶屋・お休み処は水曜(祝日の場合は営業)、元日
Access/地下鉄烏丸線「今出川」駅から徒歩約10分
地図

鶴屋吉信 TOKYO MISE

Address/東京都中央区日本橋室町1-5-5 COREDO室町3 1F
Tel/03-3243-0551
営業時間/10時~21時、茶房・菓遊茶屋は10時30分~19時30分LO
定休日/元日
Access/東京メトロ銀座線「三越前」駅から徒歩約1分
地図
お菓子 代表銘菓

1.小倉と村雨を丁寧に巻き上げた棹菓子「京観世」は、柚餅と並ぶ『鶴屋吉信』の代表銘菓。260円~。2.求肥に完熟ブルーベリーの甘酸っぱい風味を込めた、新感覚の京菓子「ブルーベリー餅」864円。3.求肥に柚子の香りを込め国産和三盆糖をまぶした、風味豊かで高雅なつまみ菓子「柚餅」540円~。4.しっとりした焼皮で小倉の粒餡を包んだ焼菓子「つばらつばら」1個152円~。銘は「しみじみと」を意味する万葉言葉から。

鶴屋吉信 IRODORI

新しい表現で切り拓く
京菓子の可能性

そして、2015年にオープンした直営店『鶴屋吉信 IRODORI』。国内外の観光客が行き交う京都駅八条口に構えた店のショーケースには、ここでしか買えないパステルカラーに彩られた干菓子などが並ぶ。もちろん、どれも本店の菓子職人が手がけたもので、可愛らしい見た目に京菓子のエッセンスが凝縮された逸品ばかり。若い世代が手に取り買い求める様子を見ていると、如何にして伝統と革新が重ねられていくのかがよくわかる。
創業210余年の老舗京菓匠『鶴屋吉信』。その道のりには、「ヨキモノヲツクル」というものづくりの精神はもちろん、京菓子文化を守り輝かせる覚悟のような気概が感じられる。

鶴屋吉信 IRODORI

Address/京都府京都市下京区東塩小路町8-3 JR京都駅八条口1F アスティロード内
Tel/075-574-7627
営業時間/9時~21時、カフェ・テイクアウトは~20時30分LO
定休日/無休
Access/JR各線「京都」駅から徒歩約1分
地図
お菓子 お菓子

1.シャリッとした独特の食感と、ジャスミンやラベンダーなど5種のフレーバーが楽しめるパステルのような干菓子「琥珀糖」10本入1,080円。2.上質な砂糖を煮詰めた飴菓子「有平糖」5本入540円。カラフルな色合わせは、祇園や竹林、鴨川など京都の名所をイメージしている。3.つくねいもを使った生地で老舗自慢のこし餡を包んだ「上用饅頭」5個入1,404円。パステルカラーと小ぶりのサイズが可愛い。