鎌倉時代から八坂神社の門前町として栄え、江戸時代以降は遊興の街として発展してきた京都・祇園界隈。今なお京都随一の繁華街として賑わう街の一角に、行列が日常風景となっている和食の店がある。祇園に数ある名店の中でも、米をメニューの主役に据えた「米料亭」という珍しい業態で暖簾を掲げる『米料亭 八代目儀兵衛』だ。
この店のルーツは、寛政の改革が始まった江戸時代後期の1787(天明7)年、京都・七条村において初代・橋本儀兵衛が創業した庄屋である。その後、1925(大正14)年に四代目が米屋を創業し、現在に至っている。230年にわたって続き、料亭や割烹など名だたる名店を取引先にもつ京都の老舗米屋による新たな業態「米料亭」を引っ張るのは、「お米屋ブラザーズ」と呼ばれる兄弟。八代目当主で五ツ星お米マイスターの兄・橋本隆志氏と、料理長で米炊き職人の弟・晃治氏、二人の米のプロフェッショナルである。
米の卸売会社で修業した後に家業へ入り八代目を継いだ隆志氏は、日本人の米離れが進む中で生き残る道を模索し、家業を存続しながら2006年に株式会社八代目儀兵衛を設立。会社初の事業として手掛けた米のギフト通販が、大ヒットを呼んだ。これをきっかけに、自慢の米を実店舗で提供すべく2009年に『米料亭 八代目儀兵衛』をオープンさせる。料理長には、由布院の老舗旅館や祇園の料亭で腕を磨いた晃治氏を抜擢。以来、老舗米屋に生まれた兄弟二人三脚で、米本来の美味しさと米食文化の魅力を世に広め続ける。
2013年には、米の食文化をより広く発信するため東京・銀座にも出店を果たした。主役の米だけではなく、脇を固める料理も秀逸。ひと皿ごとに目と舌で日本の四季や大地の恵みを感じさせるコース仕立てのメニュー構成で、驚きと感動を提供し続けている。
京都/祇園四条
当主の兄が目利きとブレンドを施した米を、料理長の弟が究極の銀シャリに炊き上げる、『米料亭 八代目儀兵衛』の祇園本店。兄弟が生み出す究極の一杯は、国内外からの観光客だけでなく、舌の肥えた地元の食通も「お米の味を初めて知った」「おかずなしで何杯でも食べられる」と唸らせる。主役の銀シャリは炊きたてにこだわり、炊飯後10分以内のものしか提供しないのが、この店の流儀だ。昼は多彩なおかずから選べる御膳スタイルの銀シャリ定食、夜は2種の米ざんまいコースというメニュー構成。ご飯はお替わり自由で存分に堪能できる。ドリンクも、日本酒をはじめライスワインやライスシャンパンなど、米にまつわるものが中心だ。
東京/銀座
祇園での出店から4年、「米料亭」は国内随一の夜の街・銀座にも進出。当初は認知不足で客足が少なかったという新店も、リピート客の口コミで名が広まり、今では予約の取りにくい店として知られる名店となった。メニュー構成は祇園の店と同じく米が主役。料理の仕込みや味付けは京風の薄味、接客は「おいでやす」「おおきに」など京ことばと、関東向けのアレンジはなく京都らしさを貫く。そんな中、銀座限定メニューとして話題を呼んでいるのが、料理人が客席へ出向いて土鍋釜から炊きたての銀シャリを振る舞う料理長厳選コースだ。味だけでなく、心に響く演出やサービスを通じて米の魅力を伝えようとする姿勢もまた、名店と呼ばれる所以なのだろう。