IL GHIOTTONE

その土地の食材で作る、
イタリア料理の本質

一年を通して、国内外問わず多くの観光客が行き交う京都・東山。八坂神社と清水寺の中間に位置する名所「八坂の塔」のすぐ隣に、一軒家の小さなリストランテがある。なかなか予約が取れないことで知られるイタリア料理の名店『IL GHIOTTONE(イル ギオットーネ)』。日曜日の午後3時、ランチ後の時間帯に指定された通り店を訪ねると、屈託のない笑顔で客人との記念撮影に応じ、姿が見えなくなるまで見送る、コックコートを身につけた男性の姿があった。彼の名は笹島保弘。「もしイタリアに京都という州があったら」をコンセプトに、京野菜をはじめ地元の食材を本場イタリアの調味料と作り方で仕上げる斬新なスタイルで日本のイタリア料理界に一石を投じた、この店のオーナシェフである。
元々はプロダクトデザイナーを目指していたが、アルバイトで料理の魅力に目覚め、この道に入ったという笹島シェフ。大阪や京都、さらにはイタリアの名店でサービスや料理の経験を積んだ後、2002年に独立してこの店を構えた。当初は、イタリアの食文化を伝えるべく現地から取り寄せた食材を使って料理を提供していたという。それが、現在のスタイルへと変わるきっかけとなったのは、イタリア人客からの「京都では野菜は採れないのか?」というひと言だ。

店舗

日本のイタリア料理界を代表する名シェフ、笹島保弘さん。

客にとっては素朴な疑問だったはずだが、笹島シェフは大きな衝撃を受けた。そこで、知り合いのイタリア人シェフにイタリア料理とは何かを問うと、こんな答えが返ってきたという。「日本ではイタリア料理と一括りにするが、ミラノ、ローマ、ナポリ、土地によってそれぞれ違う。なぜなら、その土地のものを使ってその土地の人のために作るものだから」と。以来、笹島シェフの方向性は一変。古くから地場に伝わる京野菜を中心に地元の旬食材を盛り込んだ、“京都という土地のイタリア料理”を確立していった。
2005年には、東京・丸の内にも出店。これは、ビジネス的な戦略としての店舗展開ではなく、違う環境にも身を置かなければ惰性化してしまうという危機感からだったそうだ。元来クリエイター気質の、笹島シェフらしさが伺える。もちろん、東京でも京都同様に予約が取れない名店ぶりを発揮している。

本店

一時は絶滅寸前だったという京野菜。生産者との信頼関係を築き、その土地の食材を守る活動にも力を注ぐ。

客の要望を
叶えながら
小さな裏切りを
散りばめる

その後、2008年と2010年には、京都でカジュアルスタイルの業態を2店舗オープン。いずれも客足が途絶えることのない人気店だったが、リストランテとしての『IL GHIOTTONE』をイメージして訪れる客の要望に応えられないこともしばしば。それが本意ではなかった笹島シェフは、きっぱりと両店とも閉める決断をとった。結果だけを見れば名店の看板が仇となってしまったわけだが、笹島シェフ本人にとっては『IL GHIOTTONE』としての使命や役割を見直す貴重な経験だったそうだ。
笹島シェフが考える使命や役割とは、客が求めるものを叶えながら、小さな裏切りを散りばめた料理の追求だ。それは、奇をてらうということとは全く異なる次元の話であり、単にイタリア料理の食材として京野菜を使うという方法論だけに留まるものでもない。

Anti pasto

ラテン語で「料理の前に」を意味するAnti pasto、いわゆる前菜。うにのオムレツをはじめ、マグロにからすみを乗せ、かぶの葉のソースと絡めて味わう料理などバラエティ豊か。

Primo piatti

最初の皿、Primo piatti。定番のトリュフを散らしたリゾットのほか、京都を代表する食材の鱧に、早松茸を合わせた松茸と鱧のパスタなど贅沢な一皿が揃う。

例えば、京料理をはじめ和食の世界に、「出合いもん」という言葉がある。鯛とカブ、鱧とキュウリ、ニシンとナス、揚げと水菜など、旬や相性による食材の組み合わせだ。古くから受け継がれてきた伝統の和食文化をイタリア料理にも取り入れ、皿の上で何気なく表現してみせるあたりに、笹島シェフならではの巧みなセンスと腕が感じられる。
そんなセンスや腕をはじめ、料理に向き合う姿勢、ホスピタリティなど『IL GHIOTTONE』という名リストランテを構成する数々の要素は、笹島シェフが一人で考えトップダウンによって築いてきたわけではない。店に関わる全てのスタッフと、アイデアや意見、不安、悩み、客の声、売上などをオープンに話し合いながら、少しずつ形にしてきたものだ。各持ち場のスタッフに責任を押し付けるのではなく、全員で課題を共有したうえでそれぞれが責任を全うしようという考え方が浸透している。

Secondi piatti

メインディッシュにあたる、2番目の皿Secondi piatti。見た目にも美味しいソースの色合いが食欲を掻き立てる、子羊の炭火焼き。旬の時期には鹿や鱧も。

オープンから17年。独立して、自身の店を構える笹島チルドレンも多い。「良い店からは良い店が生まれるんですよ(笑)」と笹島シェフは茶化すが、その言葉は名店の系譜そのものだ。

Dolci

美味しくて楽しい食事の時間を締めくくるデザート、Dolci。数ある中でも高い人気を誇るビアンコマンジャーレは、ミルクソルベとともに上品な甘さ。

IL GHIOTTONE
京都

IL GHIOTTONE 京都

Address/京都市東山区下河原通 塔ノ前下ル八坂上町388-1
Tel/075-532-2550
営業時間/12時~14時ラストオーダー、18時~20時30分ラストオーダー
定休日/火曜(月1回水曜不定休)
Access/京阪本線「祇園四条」駅から徒歩約10分
地図
IL GHIOTTONE 京都

『IL GHIOTTONE 京都』。「八坂の塔」の隣に立つ一軒家は、笹島シェフ自らも設計に携わり、施工は店舗ではなく住宅を専門とするデザイナーや大工に依頼した。

IL GHIOTTONE
丸の内

IL GHIOTTONE 丸の内

Address/東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA 1F
Tel/03-5220-2006
営業時間/11時~14時ラストオーダー、18時~20時30分ラストオーダー
定休日/不定休
Access/JR各線「東京」駅から徒歩約2分
地図
IL GHIOTTONE 丸の内

『IL GHIOTTONE 丸の内』の店内。こちらも京都から職人を呼んで設えた。