広州、潮州、福建など中国南部地域発祥で、中国料理における四代系統の一つ、広東料理。古くは「食在広州(食は広州にあり)」と称され、豊富な食材と優れた調理技術で発展を遂げてきた。フカヒレやツバメの巣、アワビなどの高級食材を使ったものから、叉焼や酢豚、飲茶など幅広い料理で、日本や世界各国においても高い人気がある。
そんな広東料理の本場、香港で知らない人は居ないと言われる名店『福臨門』の流れを汲むのが、『家全七福酒家』だ。ルーツは、現代表である徐維均(チュイ ワイクォン)氏の先代にあたる徐福全(チュイ フックチュン)氏が、イギリス統治下時代の1948年に創業した出張料理の専門店『福記』。自宅で豪華な宴席を開く香港の富豪たちに高く評価され、「門に福が臨む」という意で『福臨門』と名を改めた。最高級の食材を追求し最大限に生かす広東料理の本質をしっかりと踏まえながら、既成概念や伝統にとらわれることなく顧客のわがままや美食への欲求を叶えていった福全氏。多くの顧客から定評を得た福全氏の料理と信念は、彼の下で14歳から修業していた七男の維均氏に継承され、1972年には香港の湾仔(ワンチャイ)で実店舗を構えた。その後、海外初出店となった東京・銀座を皮切りに、大阪・心斎橋、東京・丸の内などにも店舗を展開。2013年に『家全七福酒家』として新たな歴史をスタートさせ、現在に至っている。
創業者の福全氏が、香港で出張料理専門店を立ち上げてから70余年。日本においても、アレンジや低価格化などは一切行わず本場の広東料理を貫いている。しかし、それは名店のプライドやスタイルの押し付けということとは大きく異なる。この店の味や膨大なメニューは、世界中の美食を知る食通からの要望に応える形で作り上げられてきたものだ。つまり、客のわがままを叶える確かな腕と深い懐こそが、この店の真骨頂であり、名店たる所以なのだ。
大阪/心斎橋
若者文化の流行発信拠点として賑わう大阪・ミナミのアメリカ村。その一角に立つ複合ビル「ビッグステップ」内の大阪店は、最上階の全フロアを占める。1994年に近隣でオープンした店は、2015年に一度閉店。その際、本場『福臨門』の味を知る熱烈なファンたちが、署名活動を行って店の存続を切望した。ファンの思いは海を越えて香港の維均氏にも届き、2016年には現在の地で再開を果たしたのである。そんなエピソードから、維均氏にとっては格別の思い入れがあるようだ。
エレベータを降りると、目の前には重厚で高級感あふれる空間が広がり、非日常の世界へ誘われる。多彩に用意されたコースの中から、予算や好みに応じてオーダーするのが、本場の味に触れる口福への近道だろう。
東京/丸の内
2002年、東京駅前のランドマークタワー、丸の内ビルディング最上階にオープン。以来、中国料理の名店ひしめく東京にあって、他とは一線を画した本場そのものの広東料理で、食通を魅了する。
現在、厨房に立ち腕をふるうのは、代々料理人の家系に生まれ自身も16歳で『福臨門』へ修業に入った袁家寶氏。あらゆる料理において味の決め手となる店の命「上湯(ショントン)」の名人として知られる、『家全七福酒家』総料理長だ。金華ハム、豚、老鶏などをベースに仕込んだ「上湯」は、一番出汁の「頂湯(テントン)」「高湯(コウトン)」、二番出汁の「二湯(イートン)」と区分される。それらを料理によって使い分ける技は匠の域。
また、アラカルトやコースなどのグランドメニューに加え、事前予約必須の限定料理も多彩に用意するなど、広東料理の魅力と楽しみ方を広く発信している。
※店舗情報などは、2019年7月末のものです。消費税率の変更に伴い、2019年10月1日から表記価格が変更されている可能性があります。詳しくは店に直接お問い合わせください。